24.05.01 改稿
一度家に帰って英気を養った私は、再び一番道路へと繰り出していた。
私よりも少し年下の男の子や女の子がポケモンバトルをしていて、彼らと目を合わせると気さくに声をかけられる。
みんなすごいな……私、知らない人に「バトルしましょう!」とか言えないよ……。
彼らの手持ちは、近辺で捕獲しやすいコラッタやポッポが多かった。たまにニドランやオニスズメを出してくる子もいて、図鑑登録が捗る。
バトルについては、なんと全戦全勝。私のトレーナーとしての才能が開花! ……というわけではなく、マソラが優秀なおかげだ。
どこかぼんやりしているマソラだけれど、バトルの時は軽やかに動き回り火を吹いた。【えんまく】を覚えたのでさっそく使ってみると、辺り一面真っ黒になってみんなで咳き込んでしまった。申し訳ない。
バトルをしているとあっという間に時間が過ぎて、気がつけば日が暮れ始めていた。遅くなる前に帰っていく子たちを見送って、私も帰る。
――そして、翌日。
「おじいちゃん、行ってきます」
「気をつけてな。なんかあれば連絡しろ」
「はーい」
外に遊びに行くときと変わらないやりとり。だけど、そのおかげで肩の力は抜けた気がする。
「マソラ、行こっか」
「かげぇ」
足元にいるマソラに声をかけて歩き出す。何度か振り返れば、その度におじいちゃんがひらひらと手を振ってくれた。私も振り返せば、マソラも真似をして前足を上げる。
やばい。ちょっぴり泣きそう。
「かげ?」
「大丈夫。よし、まずはトキワシティを目指すぞ〜!」
不思議そうにこちらを見上げるマソラに笑顔を向けて、気合を入れ直す。
トキワシティはマサラタウンの隣町。距離もそんなに遠くない。……とは言え、歩くと時間がかかる。
私はマソラをひとまずボールに戻して、マサラとトキワを行き来するバスに乗ることにした。
歩いていくのも旅の醍醐味なのだろうけど、時折買い物しにトキワまで出かけたことがある私としてはちょっとめんどくさいなとか思ってしまう。
バスに揺られること数十分。何事もなくトキワシティに到着した。バスを降りてすぐに、マソラをボールから出す。
知らない景色にきょろきょろと首を動かすマソラの頭を撫でて、まずはフレンドリィショップへ向かった。
「えっと……ボール、傷薬……毒消しと麻痺治し……」
おじいちゃんからもらったメモを見つつ、買い物カゴの中に必要なものを放り込んでいく。お小遣いと賞金が一気になくなってしまった。
ポケモントレーナーって大変だな、なんて思いつつレジに向かおうとしたその時。
「あれ? アヅサじゃん。何してんだ?」
名前を呼ばれて振り向くと、ツンツンとした茶髪を揺らしたそのひとはひらりと手を挙げた。
「グリーンくん」
「元気そうじゃん。おつかいか?」
興味深そうにカゴの中を覗き込んでくるそのひと――グリーンくんと会うのは久しぶりだった。幼馴染みで兄貴分の彼は二年前にポケモンリーグの殿堂入りを果たし、今ではトキワシティのジムリーダーである。
多忙な日々を過ごす彼と会えるなんて、この旅は幸先がいいのかもしれない。
「……お前、旅に出んの?」
「うん」
「あいつ帰ってきたのか!?」
「……ううん。違うよ」
首を横に振ると、グリーンくんは気まずそうな顔をした。その後、誤魔化すみたいにけらけらと笑う。
「はは、あいつ。とうとうアヅサにも見捨てられてやんの。……ほんと、どうしようもない奴」
「……グリーンくんにも、連絡ない?」
「まっっっったく無いね!」
ふんと鼻を鳴らしたグリーンくんに苦笑いしてしまう。
「ま、あいつのことなんてどうでもいいんだよ。それより今はお前のこと! ポケモンは?」
「オーキド博士にヒトカゲもらった」
「じーさんとこのヒトカゲっつーと、ああ……大丈夫か?」
「のんびりしてるけど、いい子だよ」
「あっそ。上手くやってんならいいけど」
ちらりと腰のベルトにつけたマソラのボールを見たグリーンくんは、なぜか私の買い物カゴを奪い取った。
「えっ!?」
「初心者セットじゃん。懐かし〜。俺もばっちり準備して旅出たっけなぁ」
「あ、あの、グリーンくん……!」
カゴを取り返そうとするが、巧みに避けられてしまう。ニヤリと笑ったグリーンくんはそのままレジへと向かった。
「ほら、グリーン兄ちゃんからの餞別だ。ありがたく思えよ〜?」
袋に詰められた一式を受け取ると、くしゃくしゃに頭を撫でられる。
「お前もやっとポケモントレーナーか〜! 俺が面倒見てやったって知ったら、あいつ絶対悔しがるだろうなぁ……ざまあみろ!」
「グリーンくん……」
けっ、と悪態をつく兄貴分の姿に苦笑いしてしまう。
「なんか困ったことがあればいつでも相談しろ。お前、スマホ持ってる?」
「うん」
「連絡先交換しとこうぜ」
スマホを取り出して、互いの連絡先を教え合う。開いたついでに時間も確認したのか、グリーンくんは「げっ、もうこんな時間か」とどこか慌てた声を出した。
「そろそろジム戻らねえと」
「グリーンくん、色々ありがとう。お仕事、がんばってね」
「これぐらい大したことねえよ。お前も頑張れ」
去り際にぽんぽんと私の頭を撫でて、グリーンくんは足早に駆けていった。
「……悔しがる、か」
本当にそうだろうか。あなたは、今でも私のことを気にかけてくれていますか?
『アヅサちゃんがもう少し大きくなったら、一緒に旅に出よう』
あの約束を、覚えてますか――レッドくん。