02 よろしく、相棒

24.05.01 改稿

 翌朝、私はヒトカゲと共にオーキド研究所を訪れていた。
 マサラタウンで最も大きい建物であり、『ポケットモンスター』と呼ばれる不思議な生き物たちを研究する人物たちの金字塔オーキド・ユキナリ博士がいる施設。
 インターホンを鳴らすと、昨日の研究員さんが出迎えてくれた。

「博士、喜んでいたよ。あのヒトカゲが誰かに関心を示すなんて、って」

「そうなんですか?」

「昨日も言ったけど、その子とてもマイペースで、自由気ままにあっちへふらふら、こっちへふらふら。おとなしくご飯を食べていたかと思えば、一瞬目を離した隙にいなくなるなんてしょっちゅう。悪い子じゃないんだけどね」

「目を離すと……気をつけるようにします」

「あはは、頑張ってね。あっ、博士。昨日話してた子、連れてきましたよ」

 研究所の奥で、二匹のポケモンと一緒にいるおじいさんに研究員さんが声をかける。

「おお、待っておったよ。君がアヅサ君じゃな」

「は、はじめまして。アヅサです」

「そう緊張せんでもいい。わしはオーキド。皆からはポケモン博士と呼ばれておる」

「よ、よろしくお願いします!」

 緊張するな、と言われてもなかなか難しい。だって有名人だ。

「君のことはミナミ、君のおじいさんから話をきいておる。あいつも孫には弱いからな」

「おじいちゃんと友達なんですか?」

「マサラは小さい町じゃからな。あいつとは昔、ポケモントレーナーとして切磋琢磨した仲なんじゃよ」

 そうだったのか。おじいちゃんもやけに親しげにオーキド博士を呼ぶなぁとは思ってたけど。おじいちゃん、自分の話あんまりしないから初耳だ。

「あの、ヒトカゲのことなんですけど」

「おお、そうじゃった。あのヒトカゲが誰かを気に入るとは実に興味深い。それでヒトカゲはどこに?」

「ヒトカゲなら私のすぐそばに……って、あれ?」

 ついてきていたはずのヒトカゲがおらず、早速やらかしてしまったと焦る。

「だねだね!」

「ぜに!」

「かげ~」

 博士といた二匹のポケモン、フシギダネとゼニガメのところに移動していただけだった。よ、よかった……。

「ヒトカゲは今日、新米トレーナーになる人たちに渡すポケモンだったんですよね。私がもらってしまっても大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃよ。他にもポケモンはおるからの。安心して、ヒトカゲのパートナーになってやってくれ」

 その言葉を聞いて気持ちが軽くなる。

「それに、君とて新米トレーナーじゃろう? 何も問題ない!」

「……ポケモン、トレーナー……」

 そっか。私、ポケモントレーナーになったのか。

「さて、ここでポケモンを託した新米トレーナーには、もう一つ渡すものがある」

「渡すもの?」

「これじゃよ」

 オーキド博士から手渡されたのは、小さくて四角い携帯端末らしきもの。

「これは?」

「ポケモン図鑑じゃよ。搭載されたカメラでポケモンを写すだけで、そのポケモンの情報が登録される優れものじゃ」

「すごい……」

「君にはそのポケモン図鑑に多くのポケモンを登録してもらい、図鑑完成の協力を頼みたい」

「は、はい!?」

 そんな大変そうなことを私が!?

「気負わなくても大丈夫じゃよ。協力者はたくさんおるから、片手間にパシャっとしてくれればいい」

「はあ」

「それを持っておると便利じゃよ~。最新型で、電話やメール、チャットもできるし、マップアプリで現在地も確認できる。その他機能追加予定でめちゃ便利!」

「つまりスマートフォンなんですね……」

「その通り!」

 ウィンクを決められて溜め息をつきそうになったが、ぐっとこらえた。
 この人は偉い博士だ。我慢我慢。

「えっと、私なりにがんばってお手伝いさせていただきます」

「うむ。頼んだぞ、アヅサ君!」

 スマホ型ポケモン図鑑と、ヒトカゲが入っていたモンスターボールをもらって、私とヒトカゲは研究所を後にした。

「まだ朝だっていうのに、どっと疲れたな……」

「かげー」

「ヒトカゲ、ちゃんとついてきて、っと。そうだ。名前」

「かげ?」

「ニックネーム、つけようと思って。色々考えてたんだ」

 種族名で呼ぶ人が多いそうだが、私は名前をつけようと思う。その方が、もっと仲良くなれるような気がするから。

「マソラ。この空みたいに、澄み切った青空色の目をしているから。どう、かな?」

 天を指差せば、ヒトカゲはその先を見つめる。

「かげっ!」

 今まで聞いた中で一番大きな声で鳴いて、笑ったように見えた。

「よろしくね、マソラ」

「かげかげ!」

 ――これが、私と彼の、これから増えゆく仲間たちの、冒険の始まり。