33 いざ、大空へ!

 ジム戦直後ということも忘れ、マソラの進化に感動して泣いていた私をシジマさんは待ってくれていた。

「いつ見てもポケモンの進化はすごいからなぁ! その気持ちわかるぞ!」

 恥ずかしさのあまり縮こまる私を、わっはっはと豪快に笑い飛ばしてくれたシジマさんはショックバッジを託してくれた。

「お前さん、これでバッジ六つ目なんだろう? 空を飛べるポケモンによる長距離移動の許可が下りておるぞ!」

「!」

 隣に立つマソラと顔を見合わせる。そうか……マソラの背中に乗って移動できるんだ……!

「久々に楽しかった! しかし負けは負けだからなあ……明日からまた二十四時間特訓だー!」

「え、あ……ご、ご無理はなさらずに……」

 雄叫びを上げながら走っていくシジマさんを見送りつつ、気づいてはないと思うけれど会釈してジムを出る。まずはポケモンセンターに行って、マソラとツキミを回復させてあげないと。
 自然と早足になりながら、ポケモンセンターに駆け込む。私を見たジョーイさんは少しびっくりした顔をして「急患ですか?」と尋ねてきた。

「あっ、い、いえ! 普通に回復で、お願いします……!」

 不思議そうな顔をしているジョーイさんに腰のボールを全て預けて、息を整える。
 ポケモンの背中に乗って海を行く、というひそかな憧れが叶った直後だというのに、今度は空を飛んでいける。気が逸らないはずがなかった。
 回復を終えたボールが手元に戻ってきてすぐ、ツキミがボールの中から飛び出してきた。

「ぴっかぁ!」

「ツキミ〜! 今日はお疲れさま! 無理させてごめんね……」

「ちゃあ」

 小さな身体をしっかり抱き締めると、胸元にぐりぐりとすり寄ってくる。それから顔を上げて、にぱっと笑った。
 相棒の優しさにさきほど止まったばかりの涙がぐっとこみ上げてくるが我慢する。今は泣くよりも大事なことがあるから。
 ポケモンセンターを出てすぐ、マソラをボールから出す。軽く伸びをしたマソラの身体を、ツキミが楽しそうに駆け上った。頭の上に居座るツキミに、マソラが緩く微笑む。

「マソラ、いける?」

「ぐぁう」

 グーサインしたマソラが身を屈める。背中に乗って首に掴まってから声をかけると、大きな翼を羽ばたかせた。
 ふわりと身体が宙に浮かぶ感覚。地面がどんどん離れていって、風が耳元を切る音がした。
 海路をいくのとはまた違うふわふわとした心地に、ほんの少し身体が強張った。

「ぴっかー!」

 私とは裏腹に、マソラの頭の角部分を掴んでいるツキミはご機嫌だ。

「つ、ツキミ。落ちないようにね……!」

 一声かけるだけでもせいいっぱいな私を気遣ってか、マソラはゆったりとした速度で進んでいく。それでも、歩いていくより断然早い。
 浮遊感に少しずつ慣れてくると、景色を見る余裕が出てきた。澄み切った空はいつもよりうんと近くて、時折ひこうタイプのポケモンが横に並んでは過ぎ去っていく。

「すごいなぁ……」

 私一人では、海を渡ることも空を行くこともできなかっただろう。もちろん、船に乗ったことも飛行機に乗ったこともあるけど……こんな体験は、ポケモンがいてくれるからこそだ。

「ぐぁ!」

「……あっ」

 立派な灯台が見える。もうアサギシティなんだ。

「がぅ?」

「……ううん、ここじゃなくて。エンジュシティまで行ってくれる? スズの塔……あの、古い塔がある街に」

 ちらとこちらに視線を向けたマソラがゆっくりと瞬きをして、再び前を見つめる。
 エンジュシティまで戻ったら、今度の目的地は東。
 繋がりの洞窟で私たちを助けてくれたこおりタイプのジムリーダー、ヤナギさんのいるチョウジタウンが、次の目的地だ。