24.05.01 改稿
マソラとニョロボンが睨み合う。私もシジマさんも、お互いに残り一体のみ。緊迫した空気が漂っていた。
「わはは! いいぞー! 楽しくなってきたなぁ!」
豪快に笑うシジマさんが気合たっぷりに拳を突き出す。ニョロボンも真似していた。
「ニョロボン、【のしかかり】だ!」
「マソラ、避けて【きりさく】!」
飛びかかってきたニョロボンを素早く避けたマソラが、鋭い爪で斬りかかる。
「【きあいパンチ】で応戦だあ!」
「【きりさく】で対抗して!」
ニョロボンが拳を繰り出し、マソラが爪でいなす。激しくぶつかり合う姿に、自然と手を握りこんでいた。
「なかなかやりおる! よぉしニョロボン、どーんと一発決めてやるぞ!」
マソラと距離をとったニョロボンが大きな水の塊を生み出す。
「【なみのり】!!」
「っ……【かえんほうしゃ】!」
水の塊は広範囲に広がり、マソラに襲いかかる。これは避けられない……!
波は熱によって僅かに蒸発したものの、全てをかき消すことなどできなかった。
「マソラ!」
前足を構えて耐えきったマソラの体はびしょびしょに濡れている。きっと苦しいはずなのに、空色の瞳から闘志は消えていない。
「よくぞ耐えきった! だがこれで終わりだ!」
再び距離を詰めたニョロボンが拳を振り上げる。マソラはふらつきながらも爪で受け止めた。
思い出すのは、マツリカさんとのバトル。膝をついたマソラに、よくがんばってくれたねと駆け寄ろうとした。
あの時の私は、負けたと。諦めたのだ。
「マソラ!!」
しっかり前を見て、胸を張って、せいいっぱい声を張り上げる。
大丈夫。マソラの炎は燃え盛っているから。――信じるって、決めたんだ。
「【かえんほうしゃ】!!」
マソラの身体が光り輝く。それは見覚えのある輝き。
真っ赤な夕日色の身体は、ヒトカゲの時に似た夕焼け色に染まる。より大きく育った背中には、それに見合う立派な翼。
「ぐぉぉぉお――――!!」
気高く吠えた竜のブレスが、フィールドの熱を上げていく。一瞬だけ怯んだニョロボンは、直ぐさま体勢を整えて【きあいパンチ】を繰り出した。
「受け止めて!」
リザードの時よりもたくましくなった身体は、しっかりとその拳を掴んだ。両翼を強く羽ばたかせると、その勢いに乗ってニョロボンを投げ飛ばした。
「ぐぁう!」
翼から生み出された風の刃が、地面に叩きつけられたニョロボンの身体を切り裂いていく。土煙に囲まれたニョロボンが起き上がってくる気配は、ない。
「――ニョロボン、戦闘不能。よって勝者、ヨシノシティのアヅサ!」
審判が、私たちの勝利を告げているのが聞こえる。だけど、今はそれどころじゃなかった。
ゆっくりと降り立ったマソラが、私を見下ろしている。目線を合わせるように少しだけ首を下げたマソラの空色の瞳が、じっとこちらを見つめていた。
出会った頃は、大きな宝石みたいだったのに。リザードになったらちょっと鋭くなって。今はもう、涼しげな眼差しだ。
「マソラ」
「……ぐるるぅ」
うんと低くなった声で鳴いた後、前足の指を一本立てる。
その姿に、目の奥が熱くなった。
「マソラは、すごいなぁ……っ」
雨雲を吹き飛ばす風のように。雲の向こうの青空のように。
私の初めての相棒は、いつだって私の不安をどこか遠くへ持っていってしまうのだ。
「進化、おめでとう……!」
「ぐぁう」
思わず抱きついた私を難なく受け止めて、大きな翼で囲ってくれる。全身を包み込む温もりに、とうとう耐えきれなくなった涙が溢れ出した。