以前訪れた繋がりの洞窟。あの時は少しじめじめしているな……と思う程度だったけれど、アルフの遺跡と通じているこちら側は水場だらけだ。
「ツキミーーーー!」
私の声が洞窟内に響き渡る。しばらくすると、どこからかツキミの声が聞こえてきた。
「ツキミ、どこ……?」
「……ぶい」
サクがボールから出てきて、すたすたと歩き出す。ちらとこちらを見ると、また前を向いた。
ついてこい、ということだろうか。先を行くサクの後を追いながら進んでいく。
「さむ……」
水が多いからだろうか。ひんやりと肌寒い。吐く息もうっすらと白い気がする。
「ぎゃお」
「マソラ……ありがとう……」
マソラが尻尾の炎を強めてくれた。冷えた体に心地よくて、ほっと息をつく。しかしまだ安心できない。だって、ツキミを見つけていないのだから。
しばらく歩いていくと、大きな池――いや、湖に辿り着いた。ということは、ここが繋がりの洞窟にある地底湖……。
「ぴか!」
「ツキミ……!」
地底湖のほとりで水面を見つめていたツキミが振り向いて駆け寄ってくる。私も走り出そうとしたが、なぜかマソラが前足を私の前に出して静止した。
「マソラ……?」
「ぐるる……!」
マソラが威嚇する先にはツキミしかいない。なんでツキミにそんなこと……そう思った瞬間。
水面が大きく揺れる。ざぶりと音を立てて、何かが現れた。それは白くキラキラとしていて――
「ぎゃう!!!!」
「ぴかっ!?」
マソラが火を吹く。背後の存在に気がついたツキミが身を屈めて、スライディングするようにこちらへ飛び込んできた。
白い輝きは炎に掻き消され、煙となった。
「くるるぅ……!」
この声、知ってる。冬の海みたいに冷たい声。
「ラプラス……?」
地底湖から顔を出したそのポケモンは、冷ややかにこちらを睨みつけている。図鑑で見た穏やかな姿とは全く違っていて……体が、震える。
「ぎゃう! ぎゃうぎゃう!」
「ぴかぁ!」
「っ、みんな、逃げよう……!」
足に力を入れて、ラプラスに背を向ける。早く離れなきゃ……!
「くぅ……!!」
「ぎゃ……!」
「マソラ!?」
逃げる私に向かって放たれた水の塊をマソラが受け止める。その場でうずくまるマソラを見て、当たってもいないのに冷や水をかけられたような気持ちになってしまう。
「マソラ、マソラ……!」
どうしよう。私のせいだ。相性最悪なのに、私を庇ってくれたから。
「ぶい、ぶいぶい……!」
サクが鞄を引っ張って、ポケットから何かを取り出す。それは、この前の虫取り大会でもらった景品のオボンの実。
「そっか……! マソラ、これ食べて……!」
マソラの口元に運ぶと、ゆっくり食べ始める。これで体力は回復するはず。
「ぴかっ、ぴかぴか! ぴかちゅー!?」
「くるる……ぎゅう……!」
「ぴっか! ぴかぴかぁ!」
私たちを守るように前へ出たツキミが、ラプラスと会話している。けれども、あまり上手くいっている様子ではない。
「ぎゅああ!」
突き放すような鳴き声と同時に、あの白い輝きが放たれる。あれは――氷の塊だ。
「ツキミ!!」
自然と体が前に出て、ツキミを抱き締めていた。覚悟していた痛みは――来ない。
「大切なポケモンを守りたいという気持ちはわかる。だがそれは、ポケモンとて同じこと。……君のその行いは多くの者を傷つける無謀であることを努々忘れてはならんよ」
「――や、なぎ、さん」
私に背を向けながら、苦言を呈するその姿は先ほどの穏やかな姿とは全く異なっている。
「ラプラスよ、荒ぶる理由が何かあるのだろう。人もポケモンも、生きていれば色々とあるものだ。だがしかし、それはここに棲むポケモンたちを脅かしてもいい理由にはならん。――その怒り、冬のヤナギと言われたこの私が静めよう」
「……くるる……!」
冬の厳しさを知るそのひとは、荒れ狂う冬の海にも似たラプラスと、真っ向から睨み合っていた。