自然公園を抜けた先、36番道路。ここはコガネ、キキョウ、そしてエンジュシティを繋ぐ交差点だ。そしてもう一つ、知る人ぞ知る有名な場所へと通じている。
『アルフの遺跡』と呼ばれるそこは、およそ千五百年も前に作られたという。発見された当初は話題となったらしいが、今ではほとんど人気もなく静かだった。
「ん……?」
何やら人だかりができている場所がある。イベントでもあるのだろうかと近寄ると、ひそひそと話す声が耳に入ってきた。
「繋がりの洞窟……」
「……ラプラスに襲われた……」
「それであの人が……」
「確かに適任だな……」
ラプラス。あの冷たい歌声が思い起こされる。……襲われた、って。一体、どういうことだろう。
人々の視線の先を追う。そこには、一人の老人とポケモン――すらりとした真っ白な身体と尾びれを持つ『あしかポケモン』ジュゴンがいた。
「チョウジタウンのジムリーダー、ヤナギさんだ……」
「こおりタイプの使い手だもんな……」
噂の的となっている老人――ヤナギさんがこちらを向いた。目が合った気がしたのでぺこりと軽く頭を下げると、なぜか私の方へ悠々と歩いてくる。
「遺跡見学かな?」
「あ、はい、あの、何かあったんでしょうか……?」
「うむ……繋がりの洞窟に現れるラプラスの話は知っているか?」
こくりと頷くと、ヤナギさんは近くにある水辺の向こう側――洞窟の入口らしき大きな穴へと視線を動かした。
「そのラプラスが随分と気性が荒いようでな……地底湖を訪れた人間やそこに住むポケモンたちを襲い、追い出してしまうそうだ。私はこおりタイプのエキスパートとして、ラプラスを保護するために今から地底湖へ向かうところなんだよ」
「そう、なんですか」
あの、冷たいけれど綺麗な声で歌うラプラスが……。
人を襲うのは、わかる。野生のポケモンだろうから。だけど、元からそこに住んでいたポケモンたちまで追い出そうとするのはどうしてなんだろう。
「遺跡を見て回るのは大丈夫だが、繋がりの洞窟には私が出てくるまで立ち寄らないように」
「……はい」
ジュゴンに乗ったヤナギさんが洞窟に入っていくのを見送る。……ラプラス、無事に保護されるといいな。
「ぴかっ」
「ツキミ?」
肩の上にいたツキミが飛び降りて水辺に近寄る。しばらく水面を見つめると……ぴょこんとダイブした。
「ぎゃーーーーーー!?」
突然の事態に叫んでしまう。周りのひとがこっちを見てくるがそれどころじゃない。だって、ツキミは器用に足で水を掻いて向こう岸に渡ってしまったのだから。
「ぴっかー!」
「ぴっかーじゃない! ツキミ! 戻ってきなさい!!」
「ぴかぁ?」
「かわいこぶってもだめ!」
こてんと首をかしげるツキミにぴしゃりと言いつけるもどこ吹く風。しかも私に背を向けて、洞窟の方へと駆けていく。
「ツキミ! だめだってば! 危ないよ!?」
「……ぴか!」
立ち止まったツキミが振り返る。けれども、ぴくぴくと耳を動かして……暗闇の中へと、消えていった。
「……そんな……」
ツキミ、どうして。なんで言うこと聞いてくれないの。
「ぎゃう!!」
「……マソラ」
ボールから出てきたマソラが私の背中を優しく叩く。……そうだ。こんなところでぼんやりしてる場合じゃない。
「……っあの! すみません! 誰かみずタイプのポケモンかひこうタイプのポケモンをお持ちの方いらっしゃいませんか!」
心を奮い立たせて、声を張り上げる。
「お願いします! 私を……向こう岸まで、暗闇の洞窟の入口まで運んでください!」
ツキミを追いかけなきゃ。だって私は、あの子のパートナーだから。