23 プリティでダイナマイトなたたかい

24.05.01 改稿

 タマゴのことは詳しい人に聞いた方がいいと思い、オーキド博士に相談することにした。
 セレビィの話をすると驚かれたが、ウバメの森に現れたという伝承がいくつか残っていることを教えてくれた。「素晴らしい経験をしたのう」と朗らかに笑われて、ちょっと照れくさい。
 コガネシティのポケモンセンターにタマゴを保護するためのケースを送ってくれたので受け取りにいった。これがあれば、余程のことがない限りタマゴが傷つくことはないそうだ。

「生まれてくるまでまだまだかかりそうだって、ジョーイさん言ってたね。どんな子が生まれてくるのかなぁ」

「ぎゃお」

「マソラ、抱っこしたいの?」

「ぎゃうぎゃう」

 こちらに前足を伸ばしてくるマソラに、タマゴの入ったケースを渡す。しっかり抱きかかえたマソラの尻尾の火が強くなった。

「もしかして温めてくれてる?」

「ぎゃう」

「……あんまり火力上げると、ゆでタマゴになっちゃうかもよ?」

「ぎゃっ!?」

 タマゴのケースを突き返された。冗談だよ、って笑うと小突かれる。いつもマイペースなマソラが驚くの、新鮮だなぁ。

「えっと……コガネジムは……」

「うちになんか用?」

 スマホのマップでジムの場所を探そうとすると、ピンク髪の女の人に顔を覗きこまれた。

「わわっ!?」

 驚きのあまり身体が仰け反ってしまう。……なんか、最近こんなのばっかりだなぁ……。

「あっ、ジムに用なんやからチャレンジャーさんやんなぁ。てことはあんた、ポケモントレーナー? ポケモンってめっちゃかわええやんなぁ! バトルとかようわからんかったけど、始めたらめっちゃおもろいやん? みんながポケモンポケモンってはしゃぐ気持ちわかるわぁ……」

「え、あ、はあ……」

「そういえば自己紹介してなかったわ! うちアカネ! コガネシティのジムリーダーやねん! めっちゃ強いで〜♪」

 ものすごい勢いで話しかけられてたじろいでしまうが、名前を聞いてそれどころじゃなくなった。この人がコガネジムの……!

「バトルするやんな? てゆうかしよ! ほら早く早く!」

「えっ、え、え〜……!?」

 急かしてくるアカネさんに手を引かれ、戸惑いを隠せないままついていくしかなかった。

◇◆◇

 コガネジムのジムリーダー、アカネさんはノーマルタイプの使い手だ。しかし彼女が初手に出してきたのはピッピだった。

「ピッピって最近、フェアリータイプやったって発表されたんやって? なんや知らんけど」

「あ、そうみたい……ですね……」

「でもかわええし、ずーっと育ててきたお気に入りの子やから許可とってん!」

 そう言って笑うアカネさんは無邪気だった。自分が『好き』『可愛い』と思ったポケモンで戦う……純粋なポケモントレーナーの形、なのかもしれない。

「ツキミ!」

 ボールからツキミを出すと「きゃー! ピカチュウやぁ!」とアカネさんのテンションが上がる。……都会のギャル、やりづらい……。

「それでは、コガネジムジムリーダーアカネと、チャレンジャーヨシノシティのアヅサのバトルを開始します!」

「ツキミ、『ほっぺすりすり』!」

 落ち着いて、いつもの戦法を繰り出す。

「ピッピ、『ゆびをふる』や!」

「ぴっぴ〜♪」

 ピッピが両手の指をリズムよく横に振る。するとその身体が光り輝いて――爆発した。

「キャーーーーーー!!!!」

「わーーーーーーー!!!?」

 え、何、何が起こった!?
 爆風が消え去ると、ツキミとピッピが目を回して倒れている。ツキミの元に駆け寄って抱き上げ、声をかけると意識を取り戻した。

「あ〜……ピッピ、ピカチュウ共に戦闘不能」

 審判をしてくれているジムトレーナーの女性が呆れた様子で判定する。

「あーん! まさかピッピの【ゆびをふる】が【じばく】になるやなんて〜!」

 【ゆびをふる】――それは、たくさんあるポケモンの技の中からランダムで発動するという不思議な技。どうやらピッピは【じばく】を引き当ててしまったらしい。

「ごめんなぁ、ピッピ……」

 涙ぐみながらも、アカネさんはピッピをボールに戻して次のボールを手に取った。

「いけぇ、ミルタンク!」

「マソラ、お願い!」

 アカネさんが次に出したのは甘くて美味しくて栄養満点なミルクを出してくれるポケモン、ミルタンクだ。

「ミルタンク、【ころがる】や!」

「マソラ、【えんまく】!」

 身体を丸くして勢いよく転がってくるミルタンクから身を隠すため、まずは【えんまく】を張る。

「【ほのおのキバ】!」

 黒煙が消えた瞬間、マソラが真っ赤に燃やした牙でミルタンクに食らいつく。

「ミルタンク、【ふみつけ】で引きはがして!」

「下がって【ひのこ】!」

 ミルタンクの足を両前足で受け止めてから下がったマソラが火を吹く。

「ミルタンク、【メロメロ】やぁ!」

「っ――――!?」

 指示を受けたミルタンクが、マソラに流し目を送る。するとマソラが【ひのこ】を止めて動かなくなってしまった。

「マソラ!?」

「【ころがる】!」

 ミルタンクに思いきり体当たりされ、マソラの身体が吹っ飛ぶ。

「マソラ大丈夫!?」

「ぐるる……」

 立ち上がったマソラがぶんぶんと頭を振る。なんか……不機嫌……?

「ミルタンク、もう一度【ころがる】!」

「【りゅうのいぶき】で押し返して!」

 転がってくるミルタンクを、青白い炎が受け止める。だんだんと勢いを削がれていったミルタンクがその場に座り込んだ。

「【ひのこ】!」

「ぎゃう!」

 さっきよりも大きい火球がミルタンクに当たる。それがとどめとなったのか、ミルタンクはとうとう倒れてしまった。

「ミルタンク、戦闘不能! よって勝者、ヨシノシティのアヅサ!」

「……はぁ〜……」

 ジム戦はいつも緊張するけれど、今回は特にハラハラした気がする……。

「アカネさん。バトル、ありがとうございました」

「……う……」

「? アカネさん……?」

 ジムバッジを受け取るため、下を向いているアカネさんに声をかけるも様子がおかしい。恐る恐る、もう一度呼びかけたその瞬間。

「わーん!! わーん!! ひどいわー!!」

 大きな声で、泣き出したのだ。