24.05.01 改稿
ヒワダタウンの西側にあるゲートを抜けると、『ウバメの森』が広がっている。
カントー地方にあるトキワの森も薄暗かったが、ウバメの森はそれ以上だ。天を見上げても木々が覆い隠しており、まるで夜になってしまったかのようだった。
「マソラ、前方お願い」
「ぎゃお」
マソラに尻尾の炎で周囲を照らしてもらいつつ、自分でもスマホのライトをつけて進む。
「サク、あんまり離れちゃだめだよ」
「……ぶい」
私とマソラの間ぐらいをてくてくと歩いているサクに声をかけた。暗いのが落ち着くのか、自ら私の腕から飛び出したサクの背中を見つめる。……これって、いい傾向だよね。こうやって、どんどん前向きになってくれるといいな。
「ぴかちゅ、ぴかぴか」
「……ぶ」
そんなサクの隣に、ツキミが並んでいる。何やら楽しそうに話しかけているが、サクは小さく溜め息をついていた。この二匹、陰と陽って感じなんだよなぁ……。
思わず苦笑いしていると、とあるものが目に入った。
「何だろこれ……?」
木製の小さな家のようなものがひっそりと建っている。鳥ポケモンの巣箱だろうか。
近寄って、そっと箱を覗きこむ。中に何かをかたどった像があった。これは多分、ほこらだ。
「この森には、神様が住んでるのかな?」
そう考えると、この暗闇も静けさも神秘的に思えてきた。
「……この先に、進ませていただきます」
ほこらの前で手を合わせ、目を閉じる。旅の安全を祈ってから目を開けると、みんなも私の真似をして手を合わせたり目を閉じたりしていた。
「さ、行こっか」
「ぎゃう」
「ぴか!」
「ぶい」
「びぃ〜!」
ほこらに背を向けて再び歩き出すと、聞き慣れない鳴き声がした。慌てて振り返れば、目と鼻の先に青い宝石が二つ。
「ひょわっ!?」
びっくりして尻もちをついてしまう。
「びびぃ〜♪」
青い宝石に見えたものは瞳だったらしい。持ち主であるその生き物はきゃっきゃと笑うと、背中についた小さな羽を羽ばたかせてくるりと宙返りした。
「え、え、何? ポケモン?」
スマホのポケモン図鑑を開く。そこにはとんでもない情報が記されていた。
「せ、れびぃ?」
セレビィ。『ときわたりポケモン』。時間を越える能力『時渡り』を持つ。セレビィが姿を現した森は草木が生い茂るといわれ――森の神様と、呼ばれる。
「ひぇ…………」
偶然見つけたほこらに祈ったら、本当に神様出てきちゃった……!
腰が抜けて動けない私をよそに、セレビィはツキミやサクと戯れている。微笑ましいけども……!
「ぎゃうぎゃう」
「あ……マソラ、ありがとね……」
いつまでもへたりこんでいる私を見かねたのか、マソラが背中を支えて立ち上がるのを手伝ってくれた。するとなぜかセレビィもちっちゃな手で私の手を掴んで……というより摘まんで引っ張ってくれる。
「えっ、あ、セレビィも……ありがとう……」
「びぃ!」
にこっと微笑んだセレビィは、私の手を摘まんだままどこかに飛んでいこうとする。いや、持ち上げるのはさすがに無理でしょ……。
「セレビィ? どこ行くの……?」
「び〜♪」
離してくれそうにないのでとりあえずついていく。しばらく歩いていくと、天から一筋の光が差し込んできらきらと輝く綺麗な泉に出た。
まるで物語に出てくる聖域のようなその場所を呆然と見つめる。
「びびぃ」
「へ?」
はいどうぞ、と渡されたのはセレビィと同じくらいの大きさのタマゴだった。
「え、何、どこから? なんのタマゴ……?」
「び!」
いや……「び!」って言われても……。
早く受け取れと言わんばかりにぐいぐい押しつけてくるので、落とさないよう手で包む。
「びぃ♪」
セレビィがダンスでもするみたいにその場でくるくると回ると、空間に謎の穴が空いた。
「びぃびぃ〜♪」
そしてひらひらと手を振ると、その穴の中に消えていってしまったのだ。
「…………えっ」
突然現れて、突然去っていった森の神様。残されたのは混乱する私と、特に気にしてなさそうな仲間たち。そして神様が与えてくれた――不思議なタマゴ。
ほんのりと温もりを感じるそのタマゴを抱えながら、謎の穴が空いていたところに手を振り返したのだった。