22 森からの授かりもの

24.05.01 改稿

 ヒワダタウンの西側にあるゲートを抜けると、『ウバメの森』が広がっている。
 カントー地方にあるトキワの森も薄暗かったが、ウバメの森はそれ以上だ。天を見上げても木々が覆い隠しており、まるで夜になってしまったかのようだった。

「マソラ、前方お願い」

「ぎゃお」

 マソラに尻尾の炎で周囲を照らしてもらいつつ、自分でもスマホのライトをつけて進む。

「サク、あんまり離れちゃだめだよ」

「……ぶい」

 私とマソラの間ぐらいをてくてくと歩いているサクに声をかけた。暗いのが落ち着くのか、自ら私の腕から飛び出したサクの背中を見つめる。……これって、いい傾向だよね。こうやって、どんどん前向きになってくれるといいな。

「ぴかちゅ、ぴかぴか」

「……ぶ」

 そんなサクの隣に、ツキミが並んでいる。何やら楽しそうに話しかけているが、サクは小さく溜め息をついていた。この二匹、陰と陽って感じなんだよなぁ……。
 思わず苦笑いしていると、とあるものが目に入った。

「何だろこれ……?」

 木製の小さな家のようなものがひっそりと建っている。鳥ポケモンの巣箱だろうか。
 近寄って、そっと箱を覗きこむ。中に何かをかたどった像があった。これは多分、ほこらだ。

「この森には、神様が住んでるのかな?」

 そう考えると、この暗闇も静けさも神秘的に思えてきた。

「……この先に、進ませていただきます」

 ほこらの前で手を合わせ、目を閉じる。旅の安全を祈ってから目を開けると、みんなも私の真似をして手を合わせたり目を閉じたりしていた。

「さ、行こっか」

「ぎゃう」

「ぴか!」

「ぶい」

「びぃ〜!」

 ほこらに背を向けて再び歩き出すと、聞き慣れない鳴き声がした。慌てて振り返れば、目と鼻の先に青い宝石が二つ。

「ひょわっ!?」

 びっくりして尻もちをついてしまう。

「びびぃ〜♪」

 青い宝石に見えたものは瞳だったらしい。持ち主であるその生き物はきゃっきゃと笑うと、背中についた小さな羽を羽ばたかせてくるりと宙返りした。

「え、え、何? ポケモン?」

 スマホのポケモン図鑑を開く。そこにはとんでもない情報が記されていた。

「せ、れびぃ?」

 セレビィ。『ときわたりポケモン』。時間を越える能力『時渡り』を持つ。セレビィが姿を現した森は草木が生い茂るといわれ――森の神様と、呼ばれる。

「ひぇ…………」

 偶然見つけたほこらに祈ったら、本当に神様出てきちゃった……!
 腰が抜けて動けない私をよそに、セレビィはツキミやサクと戯れている。微笑ましいけども……!

「ぎゃうぎゃう」

「あ……マソラ、ありがとね……」

 いつまでもへたりこんでいる私を見かねたのか、マソラが背中を支えて立ち上がるのを手伝ってくれた。するとなぜかセレビィもちっちゃな手で私の手を掴んで……というより摘まんで引っ張ってくれる。

「えっ、あ、セレビィも……ありがとう……」

「びぃ!」

 にこっと微笑んだセレビィは、私の手を摘まんだままどこかに飛んでいこうとする。いや、持ち上げるのはさすがに無理でしょ……。

「セレビィ? どこ行くの……?」

「び〜♪」

 離してくれそうにないのでとりあえずついていく。しばらく歩いていくと、天から一筋の光が差し込んできらきらと輝く綺麗な泉に出た。
 まるで物語に出てくる聖域のようなその場所を呆然と見つめる。

「びびぃ」

「へ?」

 はいどうぞ、と渡されたのはセレビィと同じくらいの大きさのタマゴだった。

「え、何、どこから? なんのタマゴ……?」

「び!」

 いや……「び!」って言われても……。
 早く受け取れと言わんばかりにぐいぐい押しつけてくるので、落とさないよう手で包む。

「びぃ♪」

 セレビィがダンスでもするみたいにその場でくるくると回ると、空間に謎の穴が空いた。

「びぃびぃ〜♪」

 そしてひらひらと手を振ると、その穴の中に消えていってしまったのだ。

「…………えっ」

 突然現れて、突然去っていった森の神様。残されたのは混乱する私と、特に気にしてなさそうな仲間たち。そして神様が与えてくれた――不思議なタマゴ。
 ほんのりと温もりを感じるそのタマゴを抱えながら、謎の穴が空いていたところに手を振り返したのだった。