18 はじめての、ジム戦

 どきどきする心臓を深呼吸してなだめてから、キキョウジムへと足を踏み入れる。受付にいた若い男の人と目が合った。

「挑戦者か?」

「は、はい」

「それじゃあ手続きしよう。こちらに来てくれ」

 言われたとおり、受付の方へと向かう。トレーナーカードの提示を求められたため、スマホを見せた。

「ヨシノシティのアヅサだな。ポケモンジムへの挑戦は初めてか?」

「はい」

「では簡単に説明しよう。ポケモンジムとは、トレーナーたちの実力を鍛え、試すために各地方のポケモンリーグ協会が設置したポケモントレーナー教育施設だ。地方によって少々定義が異なるところもあるが……カントー・ジョウトリーグ連合では、そう定めている」

「は、はあ……」

「各地方に八つのジムが存在し、それぞれをリーグが認めた実力者……ジムリーダーが治めている。ジムリーダーに挑戦し、勝利した者にはその証としてジムバッジが贈られる。バッジの獲得数が多いほど、ポケモントレーナーとしてのランクが高いということだ。さらに、八つ集めた者にはポケモンリーグのトップトレーナー……四天王とチャンピオンへの挑戦権を得ることができるぞ。詳しくは先ほど登録の際にスマホへ送った電子パンフレットに目を通しておいてくれ」

 なんかあれこれ言われたけど、つまりはポケモントレーナーとして成長できて、さらに強い人と戦える機会ができる……ってこと、だよね。
 スマホに電子パンフレットを送信されていることを確認する。後でちゃんと読んでおこう。

「ここ、キキョウジムのリーダーは『華麗なる飛行ポケモン使い』ハヤトさんだ。すぐにでも挑戦できるが、準備は大丈夫か?」

「は、はい! いけます!」

「うん、いい返事だ。ではバトルコートへ案内しよう」

 受付の男性に連れられて、ジムの奥へと進んでいく。そこには、観戦席に囲われた立派なバトルコートが広がっていた。
 そして私たちの向かい側には――和服を着た、青い髪の青年が立っている。

「初めまして、チャレンジャー。俺がこのジムのリーダー、ハヤトだ」

「ヨシノシティの、アヅサです。その、本日は、よろしくお願いします……!」

「ああ、よろしく。じゃあ、早速始めようぜ」

 ボールを構えたハヤトさんに、落ち着けたはずの心臓がばくばくと鼓動を早めていく。震える手で、腰のベルトにつけたツキミのボールを掴んだ。
 縮小化されているボールのスイッチを押して大きくする。半透明の赤いドーム越しに、ツキミと目が合った。
 深呼吸を、一つ。震える手に、力を込めて。

「ただいまより、キキョウジムジムリーダーハヤト対チャレンジャーアヅサのバトルを行います。使用ポケモンはジムリーダー、チャレンジャーともに二体まで。交代は可能です。それでは――試合開始!」

「いけ、ポッポ!」

「――ツキミ!」

 ここまで案内してくれた受付の男性が審判として合図を出す。それと同時にほとばしる二つの赤い閃光。
 ハヤトさんが出したのは『ことりポケモン』のポッポだ。ポッポは何度も戦ったことがある。焦らず、落ち着いていこう。

「ポッポ、【すなかけ】だ!」

 ポッポが翼を羽ばたかせて、砂埃をまき散らす。それが目に入ったのだろう。ツキミが前足で目を擦っている。

「【たいあたり】!」

「ツキミ、【ほっぺすりすり】!」

 ぶつかってきたポッポを受け止めながらも、ツキミの赤い頬袋が火花を散らす。弾かれるように離れたポッポが地面に落ちた。

「麻痺か……!」

「続けて【エレキボール】!」

 ツキミの頭上で、生み出された電撃が球体となっていく。これは先日覚えたばかりの新技だ。

「ぴっか!」

 稲妻形の尻尾をラケットのように使って打たれた球体が、痺れて動けないポッポに直撃する。
 効果抜群の電気技を食らったポッポは、目を回していた。

「ポッポ、戦闘不能。ピカチュウの勝ち!」

「ツキミ、やったね!」

「ぴっぴかちゅ!」

 ツキミは前足を上げてピースサインを送る。私も同じように二本指を立てた。

「……相性に助けられたな。だが、次はそう簡単にはいかないぜ!」

 そう言ってポッポをボールに戻したハヤトさんが次に出したのは、ポッポよりも一回りは大きい鳥ポケモン。

「ぴじょーーっ!」

 ポッポの進化系である、ピジョンだ。

「ツキミ、このままいけそう?」

「ぴかちゅ!」

「うん。じゃあ頼んだ!」

 まだまだ余力を残しているツキミに、次もがんばってもらうことに決める。
 ピジョンを倒せば――初めての、ジムバッジだ。