24.05.01 改稿
トキワの森を抜けると、落ち着いた色合いの街並みが広がっている。お月見山のふもとにある険しい山間の街『ニビシティ』だ。
マソラもツキミも興味深そうに辺りを見回している。実は、私もそわそわしていた。ニビシティに来たのは初めてだったからだ。
「とりあえず、ポケモンセンターに行こう」
森を抜けるまでに、野生のポケモンだけでなくトレーナーとも戦った。ほとんどは虫ポケモンを捕まえに来た、いかにも虫取り少年といった男の子ばかり。時折ピカチュウ狙いの子や、なんとフシギダネを探している人もいた。どうやら見かけた人がそれなりにいるらしい。
虫ポケモンたちはマソラが蹴散らしてくれた。仲間になったばかりのツキミも大活躍だ。【でんきショック】はもちろんだが【ほっぺすりすり】という技が可愛くて面白い。頬に溜めた電気を擦りつけることで、相手を確実に麻痺状態にする技のようだ。麻痺で動きが鈍ったところに【でんこうせっか】をぶつける。マソラとは異なる戦法に、ポケモンバトルの楽しさをまた一つ知った気がした。
マソラとツキミをボールに戻し、ポケモンセンターへ向かう。ロビーは広々としていて、いろんな人が自分のポケモンたちと自由に過ごしていた。
「こんにちは。回復ですか?」
「は、はい。お願いします」
受付に行くと、ジョーイさんが笑顔で応対してくれた。彼女の隣にいたラッキーが、にこにこ笑顔で丸い窪みのついたトレーを差し出してくる。恐らく、ここにボールを置くのだろう。
腰につけていたボールを手に取って並べると、ジョーイさんが言葉を続ける。
「ポケモンボックスの回復はよろしかったでしょうか?」
「ぽけ、え……?」
初めて聞く言葉に戸惑う。そんな私の様子に直ぐさま気がついてくれたジョーイさんはにっこり微笑んだ。
「ポケモンボックスは、持ち歩きの上限である六匹以上のポケモンを捕獲した際に保管するための機能です。スマートフォンはお持ちですか?」
「は、はい」
「標準機能として搭載されていると思いますので、画面をご確認ください」
スマホの画面をタップして、ずらりと並んだアプリのアイコンを確認する。その中に『ポケモンボックス』はあった。
「スマートフォンの通信機能と捕獲したモンスターボールを連動させることで、ポケモンボックス内にポケモンを預けることができます。預けたポケモンは一時的な休眠状態になりますので、食事やその他のお世話の心配がいりません」
「はぁ……」
なんだかよくわからないけど、すごい機能であることは伝わった。
「ですが、捕獲時に弱らせた状態ですと体力が消耗したまま預けられることになります。ボックスから連れ歩きに移動させた場合、弱った状態でバトルに出してしまうことになりますので、ポケモンセンターではボックス内のポケモンの回復も行っているんですよ。もしご利用の際は気軽にお声掛けください」
「はい。ありがとうございます……!」
お礼を告げると、いつの間にかどこかに移動していたラッキーがトレーを手に戻ってきた。
「お手持ちのポケモンの回復が終わりました。本日はご宿泊はどうされますか?」
「あ、えっと、お願いします」
ポケモンセンターはトレーナーの宿泊施設でもあることは知っていた。ニュース番組のポケモンセンター特集で見たことがあったから。
「ではトレーナーカードの提示をお願いします」
トレーナーカード――つまり、身分証だ。これもスマホのアプリとしてインストールされている。アプリを開いて見せると、部屋のカードキーを渡される。これで今日の寝床に困ることはないだろう。
ジョーイさんにもう一度お礼を言って、早速借りた部屋に向かう。森の中を歩き回って、正直へとへとだ。
エスカレーターを上がると、宿泊設備の整った階層になるようだ。ずらりと並んだ扉から、カードキーに書かれた番号と同じものを探す。扉の横についたパネルに鍵をかざせば、かちりと音が鳴った。
扉の向こう側はシンプルながらも、温かみのある内装だ。足元に置いてあったスリッパに履き替えて、リュックを下ろしてすぐにベッドへ飛び込む。しっかりとしたマットレスに受け止められながら、深く息をした。
「つ……疲れた……」
一日でマサラからニビまで移動するなんて、とんだ大冒険だ。……まあ、これから地方さえ越えるのだから、この程度でくたびれてちゃ駄目なのかもしれないけど。
「……ん……?」
腰の辺りが震えている。手を伸ばすと、マソラとツキミのボールががたがたと揺れていた。
スイッチを押して開くと、赤い光と共に二匹が飛び出してくる。
「かげ……?」
「ぴかちゅ」
「好きにしてていいけど、部屋の物壊したりしないようにね……」
二匹はこっくり頷いてサムズアップする。どこでそんなの覚えたんだろう……。
それにしても、この子たちは元気だな。回復してもらったからだろうか。私もしてもらいたい……。
そんなことを考えているうちに、瞼が重たくなって。次に目が覚めたのはすっかり日が暮れた夕飯時。お腹を空かせた二匹に起こされるまで熟睡してしまっていた。