ハイエナは2匹もいらない(ラギー)

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 彼女のベッドの上に居座る、小さなそれと目が合った。
「……アヅサくん、これ。何スか」
「あっ、これですか?」
 指差すと、彼女は嬉しそうにそれを手に取る。
「クラスメイトに裁縫の得意な子がいるんですけど、頼んだら作ってくれて。可愛いですよね!」
 彼女は自分の顔の前にそれを出して、前脚を指でつまんで動かす。
 それ、とはつまり。可愛らしくデフォルメされた、ハイエナのぬいぐるみだった。
「へー……」
 自分でも驚くほど冷めた声が出たが、彼女は気づいていないようだった。ぬいぐるみを指でむにむにと触って楽しそうにしている。
「作ってもらってから、いつもこうやって枕元に置いて一緒に寝てるんです。グリムが寝惚けて蹴ったりしないよう、反対側に置いてるんですよ。触り心地も良くて、ついついこうしちゃうんですよね〜。ラギー先輩も触りますか?」
 差し出された小さなぬいぐるみを手に取る。確かに肌触りはいいし、綿がしっかり入っているので弾力がある。
「アヅサくん」
「触り心地どうですか?」
「俺の耳の方がもふもふだと思うんスけど、これとどっちが好き?」
 ぽかんとした表情で、彼女はオレとぬいぐるみを交互に見つめる。
「一緒にだって寝てあげるし、グリムくんに蹴飛ばされてもへっちゃらッスよ」
 まあ黙ってやられるほどお人好しじゃないので、オレも寝惚けてガブリとやってしまうかもしれないが。
 オレの話を黙って聞いていた彼女の口元が、ゆるゆると弧を描いていく。
「笑わないでくださいよ。人がアピールしてるんスから」
「だって、ラギー先輩が可愛いから」
「可愛いオレも好きでしょ?」
「よくおわかりで」
 彼女の手を引きながら、ベッドに腰掛ける。彼女もされるがまま隣に座った。
「それで? どっちッスか?」
「もちろん、ラギー先輩のお耳の方が好きですよ。一緒に眠るのもそうです。……グリムには仕返ししないであげてくださいね?」
「考えとくッス」
 返ってきた答えに満足して、鼻先を相手のそれに擦り寄せる。
「ハイエナのぬいぐるみを作ってもらった理由は、ラギー先輩が好きだからですよ」
「わかってる」
 そんなこと、モチーフがハイエナっていう時点で理解していた。それでも彼女に大事にされているのは納得がいかない。傍にいるハイエナはオレだけでいい。……他の奴にだって、くれてやるつもりはない。
「ねえ、アヅサくん。ぬいぐるみじゃできないこと、しよっか?」
「……張り合わなくてもいいじゃないですか」
 呆れを含みながらも、ほんのりと頬を赤らめて期待する彼女の小さな口に噛みついた。

2021年12月28日