想い出の、音になる(デュース・スペード)

 デュースに誘われて訪れた、彼の故郷――時計の街。その名の通り、時計が名産品らしく街の至る所に時計屋さんがあった。それだけでなく、精密機器の生産も多いらしい。デュースの好きなマジカルホイールの部品なども作っているようだ。
 友人や先輩方へのお土産を見ている最中、目に留まったのは細かな細工が施された小さな箱。小物入れだろうか、と眺めていると店員さんに声を掛けられた。
「こちら、オルゴールになっているんですよ」
 そう言って箱を開けると、軽快なメロディーが流れ出す。蓋の裏側にはガラスのような板が貼りつけられており、そこに白ウサギを追いかける女の子の姿が映し出されていた。
「魔法石に記録した映像を流しているんです。当店で一番人気の品で、プレゼントにおすすめですよ。他にもございますので、ごゆっくりご覧くださいね」
「あ、ありがとうございます」
 軽く会釈をして去っていく店員さんにお礼を言って、他のオルゴールを手に取ってみる。メロディーが異なるだけでなくティーパーティーをしているものや、ハンマーで時計を叩き壊すものなど、映像も違っていてなかなか楽しい。
「何見てるんだ?」
 別の商品を見ていたデュースがこちらに寄ってきた。持っていた小箱を見せると「ああ、オルゴールか」と懐かしそうに笑う。
「僕も昔持ってたな。音に合わせて絵が動くのを、いつまでも見てた」
 小さい子供の時のデュースが目を輝かせてオルゴールを眺めている姿を想像して、なんだか微笑ましい気持ちになる。可愛かったに違いない。
「アヅサはどれが一番気に入ったんだ?」
「……この、女の子がずーっと下に落ちていくやつかなぁ」
 可愛らしいワンピースを着た女の子がふわふわと落下するだけなのだが、目が離せない。音楽もちょっと不思議な感じだし。
「わかった」
「え?」
 デュースはオルゴールを手に取るとレジに向かう。お土産用の可愛らしい袋に入れられたそれを手に戻ってくると、私に向かって差し出した。
「お前、グリムのことばかりで自分の分は何も買ってなかっただろ。今日の記念にやるよ」
「ありがとう……!」
 袋を受け取ると、デュースは気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「おもちゃみたいなものなのに、そんな嬉しそうな顔されると照れるな……」
「だって嬉しいし……」
 袋を見ているだけで自然とにやけてしまう。
「私が喜ぶと思ったから、買ってくれたんでしょう?」
「それは、まあ……僕はお前の、か、彼氏、だから……」
 ごにょごにょ呟きながら頬を染める、私よりも初心な恋人の手を握る。
「私のことを考えてくれる、その気持ちが嬉しいんだよ。ありがとう、デュース。……大好き」
 最後の言葉だけ小さな声で伝えたが、ばっちり聞こえていたようだ。真っ赤に色づいたその顔を見て、笑いが堪えきれなかった。

2023年9月10日