24.05.01 改稿
エンジュシティに着いたら、行きたいと思っていた場所がある。
『歌舞練場』という名前のそこでは、華やかな着物を身にまとった綺麗な女性たちが、舞台の上でくるくると踊っていた。
彼女たちのそばには、パートナーであろうポケモンたちが一緒に踊っている。そのポケモンたちには、ある共通点があった。
「ほら、サク。みんな、サクが進化するかもしれないポケモンたちだよ」
女性たち――舞妓さんのパートナー。それは、イーブイの進化形だった。
でんきタイプのサンダース、みずタイプのシャワーズ、ほのおタイプのブースター……エスパータイプのエーフィに、あくタイプのブラッキー。
他にもいるらしいけど、舞妓さんたちが連れているのはこの五種類。
昔、舞妓さんたちにインタビューをするニュース番組を見たときにイーブイの進化形たちを連れていたのを思い出し、ぜひサクに見せてあげたいと考えていた。
サクが将来どの進化形を選ぶのか。その手助けになればいいな。
舞台をじーっと見つめるサクの頭を撫でていると、一人の舞妓さんが舞台から降りてこちらに近寄ってきた。
「かいらしいポケモン連れてはりますね」
「へっ!? あ、ありがとう、ございます……」
鈴の鳴るような声で話しかけられて、どぎまぎしてしまう。
舞妓さんは袖で口元を隠しながら、くすくすと笑った。
「ふふ、懐かしわぁ。ねえ、ブラッキー」
名前を呼ばれたブラッキーが、きゅるると喉を鳴らして舞妓さんに甘えている。
「もう、何に進化させるか決めてはるん?」
「あ、いえ……サク、えっと、この子がなりたいものに……なってほしくて……だから、この踊り場に来たんです。参考に、なるかな、って」
「あら、せやったらぶさいくなところは見せられまへんなぁ。うちらとねえさんがたの踊り、よう見て楽しんでいっておくれやす」
「は、はい。ありがとうございます……!」
優雅に会釈して舞台へと戻っていく舞妓さんの後ろ姿を見送る。どきどき高鳴る胸を撫で下ろして、ほっと息をついた。
「舞妓さんとブラッキー、綺麗だったね」
「…………ぶい」
「サクは、気になるところある?」
「…………」
練習の邪魔にならないよう、ひそひそとサクに話しかける。サクは何も言わず、ただただ舞台を見つめていた。
「サク、あのね。どっちでもいいんだよ、私」
「……」
「サクが進化しても、しなくても。どっちだっていい。私はサクが、サクらしくありたい姿で、いてほしいから」
「……」
「他の進化形も……あと三種類くらいあるんだって。本当はこんな風に実際どんなポケモンなのか見せてあげたいけど……なかなか難しいから、後で図鑑一緒に見てみようね」
「……ぶい」
虫取り大会のこと、ミスミのこと。これをきっかけに、サクは前よりももっと心を開いてくれた気がする。だって出会った頃のサクなら、他のポケモンと積極的に関わるなんてことしなかったと、思う。
サクは少しずつ、自分の世界を広げていっている。――それはきっと、私も同じだ。
私たちは、これから先どうしたいとか、どうなりたいとか、まだまだ不確定で。それがほんの少し怖かったりも、して。
でも、怖いだけじゃない。わくわくや、どきどきもあるんだってことを……この旅で、知ったから。サクも、そうだと思うから。
きみに助けてもらうだけじゃなくて――お互い、支え合っていけるように。
サクのパートナーとして、もっと安心できる存在になれるよう……私なりに、頑張っていこう。