やけるこころ、きみのせい(スグリ)

 だんだんと暮れゆく祭りの夜。屋台の灯りに照らされながら、俺の渡したりんご飴に口をつけたあの子。
「美味しいね」
 そう言ってやわこく笑う表情は、一年経った今でも鮮明に思い出せるほど頭ん中に焼きついてた。

◇◆◇

 屋台に目移りするアヅサの横顔を、そっと覗き見る。俺の視線に気がついた星みてぇな目が、きらりと瞬いた。
「今年も、賑やかだね」
「……うん」
 アヅサと過ごす、二回目のオモテ祭り。去年のことがあったからか、鬼さまを模したお面を被る人が増えている。おれも悩んだ、けど。結局、いつもと同じお面にした。アヅサは白いロコンのお面を頭の後ろに引っかけている。日暮れのような藍染めの髪に、よく映えていた。
「あっ」
 何かを見つけたアヅサが小走りで駆けていく。思わず伸ばした手は、空を切って。ぐっと握り締めながら、すぐに後を追う。
 アヅサはフルーツ飴の屋台の前にいた。店のにいちゃんからりんご飴を二つ受け取ると、隣に並んだ俺に一つ差し出す。
「去年の、お返し」
 あん時と、同じ顔。やわっこくて、きらきらしてて。目がちかちかすんのに、ずっと見ていたくなる。
「スグリくん、飴……いらなかった?」
「……ううん。ありがと」
 いつまでも受け取らん俺に不安になったのか、へにょりと眉を下げるアヅサからりんご飴をもらう。
 ほんの僅かに触れた指先が、熱い。
「りんご飴って、こういうお祭りの時にしか食べないから。ちょっと特別な気持ちになるんだよね」
「……特別……」
 飴にかじりついたアヅサの口が、ほんのりと赤く染まる。心臓がうるさくて、祭り囃子の音が遠くなった。
 特別。それは俺にとって、去年の林間学校がそうだ。いつもと変わらない故郷の景色を一変させたのは、憧れの存在に選ばれたのは、本気で手を伸ばしても届かない悔しさと情けなさに身を焦がしたのは――。
「スグリくん?」
「……ずりぃなぁ……」
「へ?」
 首を傾げるアヅサの手を掴む。まんまるに見開いてから瞬きする星色の目をじっと見つめた。
「んだば、俺の特別はアヅサだ」
「え……」
「アヅサといると、特別な気持ちになる」
「えっ……え……!?」
「……アヅサにも、そうなってほしい」
 俺ばっかり、どきどきしてるから。もっと、もっと……俺のことを、意識して。一生忘れられんぐらい、焼きつけろ。
「あ……え、と……その……」
「……他も、見に行こ」
 りんご飴みたいにほっぺを赤くしたアヅサの手を引いて歩き出す。さっき触れた指先よりも熱くなった手は俺の体温か、それとも。
「……うん……」
 やんわりと握り返してくれる、めんこい手か。……多分、どっちもだと、思いたい。

2023年9月20日