chill-out happy day(アヅサと手持ちポケ)

 薄く千切った綿飴を散りばめたような青空を見ながら、ぐーっと背伸びをする。草花を優しく揺らす風は心地よく、髪や肌を撫でていった。
 こんな過ごしやすい日に、外へ出ないのはもったいない。――そう訴えてきたのは、体力を持て余した自慢の相棒たちだ。彼らに引き摺られるようにして家の中を飛び出してみれば、なるほど確かに気持ちがいい。
「ぴかぁ!」
 野原を駆けていく黄色い影――ピカチュウのツキミがこちらを振り返って、小さな前脚をあげた。それに応えていると、後ろに控えていたリザードンのマソラが足元で丸くなる。
「動けないよ、マソラ」
 彼はぐるぐると喉を鳴らすだけで、解放してくれる気配はない。
「ぴか、ぴぃか」
「……ぶらぁっき……」
 私が来ないとわかったツキミが次に目をつけたのは、近くにあった木の下でひっそりと座り込んでいたブラッキーのサクヤだった。一緒に走り回ってほしいのだろうが、サクヤにやる気はなさそうだ。
「ルーン、悪いけどツキミのところ行ってあげて」
「くおん!」
 マソラと同じく、私の傍にいたルカリオのルーンにお願いすると、承知したとばかりに頷いてくれる。ツキミとサクヤの元に駆けていく姿を見送りながら、その場にしゃがみこんだ。
「みんな、外に連れてけ〜って言ったくせにのんびりし過ぎじゃない?」
「……ぐぁう」
「まあ、マイペースなのは今更か……」
 誰に似たのか、うちの子たちは自由人ならぬ自由ポケモンばかりだ。せっかくのお出かけだというのに、これじゃあ家の中と変わらない。
「ボール遊びとか……する?」
 よその子は結構するらしい、と聞いて用意したボールを鞄から取り出してみる。半分ほど目を開けたマソラは、しばらくそれを見つめると再び目を閉じた。さほど興味はないらしい。
「マソラ、寝ちゃうなら私もツキミたちのとこへ――」
 なんとか抜け出そうと足を動かした瞬間、頭上に影がかかる。気がつけば、彼の大きな翼の内側に閉じ込められていた。
「……今日は随分と甘えんぼさんだね」
 頭を撫でてやれば、心地良さそうに小さく鳴いた。もしかして、出会ったばかりの頃の夢でも見ているのかもしれない。
 寝転んだ私たちに気がついたのか、他の子たちが声を上げながら近寄ってくる気配を感じる。このままだと、みんなでお団子になって日向ぼっこかな。……ある意味、贅沢な時間かもしれない。
 マソラの翼の隙間からぴょこりと顔を出したツキミに笑いかけながら、今だけはあれこれ考えるのをお休みすることにした。

2023年9月10日