星のきらめきに、魅せられる(チリ)

 パルデアポケモンリーグ自慢のチャンピオンランクであるネモとハルトがタッグバトルをしたいと申し入れに来た。
 うちの総大将はそれはもう喜んで、四天王がその相手を引き受けることになったのだが。
 大将は実家関連で留守、アオキさんは早々に逃げた。ポピーはお昼寝中。無理に起こされへん。
 となると、自分が総大将と組まされんのかと思いきや、にっこり笑った上司が誰かに連絡し始めた。
 やってきたんは、三人目のチャンピオンランク。
「こ、こんにちは〜」
 苦笑を浮かべて現れたその子に、ネモとハルトが目を輝かせる。その視線を受けて、彼女はますます表情を弱らせた。
 ジョウト地方ヨシノシティからやってきたその子は、数々の地方で優秀な戦績を残している凄腕ポケモントレーナー。本人は謙遜するが、実力は総大将が直ぐさま目をつけてスカウトするほどのお墨付き。
 考えることは他の地方のお偉方も一緒らしく、方々からそれとなく苦情が来て頭を抱えた。彼女自身は、どこかに属する意思はないらしいのがまた事情を複雑にしている。
「チリさんとタッグを組んで、ポケモンバトルをしてほしいと聞いてきたんですけど……」
「ああ、うん。ごめんなぁ、うちの総大将ほんま強引やから……びっくりしたやろ」
「いえいえ、特に用事もありませんでしたし……あんな顔されたら、今更引けません」
 子供たちに柔らかな眼差しを向ける彼女の横顔からは、穏やかな人柄が見てとれる。けれども、自分は知っているのだ。腰に下げたモンスターボールを手に取った瞬間、このどこか気弱そうな少女が圧倒的な強者に姿を変えることを。
「それに、チリさんと一緒なら心強いです」
「そんなんこっちの台詞やわ。ほな、気張っていこか」
「はい!」
 バトルコートに並び立つ。先手はナマズンでいく、と伝えれば「では私はツキミ……ピカチュウでいきます」とボールを構えた。
 期待と興奮を隠さない目の前の子供たちを見据えつつ、ほんの少し視線を横に向ける。先ほどまでの穏やかさはすっかり形を潜め――強者の風格を纏ったポケモントレーナーが、そこにいた。
「やるからには、勝ちましょう」
「……当たり前や」
 実力者とのバトルは、何度も繰り広げているはずやのに。興奮が背筋を震わせる。まさに、武者震い。
 それを感じさせるのが、隣にいる彼女なのだと理解している時点で――自分も、他と変わらず骨抜きにされてしまっているのだろう。
 さてどう口説き落としたもんか。とりあえず、その手段はバトルが終わってから考えることにしよう。

2023年9月10日