パルデア地方に観光目的で訪れてから、もうすぐ一月経つ。
どうせなら、と始めたジム巡りは半分を終えていた。
「次はどこに行こうかな……」
スマホでマップアプリを開き、スワイプしながらうんうん悩む。
「ここからやと、チャンプルタウンが近くておすすめやね。変わったご飯屋さんもあっておもろいで〜」
「へー、チャンプルタウン……」
じゃあ次はそこにしよう。そう決めてから、ふと疑問を抱く。
「え、あ、だ、どっ、どちら様……!?」
「お〜、ええ反応。そこまでびっくりされると驚かし甲斐あるなぁ」
突如私の横に現れたそのひとは、けらけらと愉快げに笑った。
深い緑色をした長い髪を一つに束ねており、すらっと背が高くて細身のシルエットをしている。服装はフォーマルに近いが固すぎず、体型や雰囲気によく似合っていた。
きりりとした眉に比べ、赤褐色の瞳は優しく垂れており柔らかい印象を与えている。
「まいど! チリいいます。チリちゃんって呼んでな〜」
「は、はあ……」
「自分、アヅサちゃんやろ? さっきのジム戦見とったで〜。バッジ獲得おめでとさん」
「ありがとうございます……?」
状況がよくわからないまま、とりあえずお礼を言うと優しく微笑まれた。どきりと心臓が高鳴って、思わず目を伏せてしまう。
「照れ屋さんなんやねぇ。ほっぺた赤ぅして、かわええなぁ」
「あ、う……」
さらりとからかわれて、ますます頬が熱くなるのがわかった。
誰だって、こんな中性的な美人に見つめられたらどきどきしてしまうと思う。
「うちの総大将に、なんやとんでもないのが来とるから様子見に行ってこい言われてきたんやけど……なるほどなぁ」
「? とんでも……?」
何かやばいポケモンでも彷徨いていたのだろうか。確かこの地方には大穴?とかいう禁足地みたいな場所があるみたいだし。そこから来たポケモンとかが暴れてた、とか。
「なんや勘違いしとるっぽいけど、自分のことやで?」
「……私、ですか……!?」
「そらそうやろ。せやからこうやって話しかけたんやし」
少し呆れた様子で、チリさん?はスマホロトムを取り出した。
「ジョウト地方ヨシノシティのアヅサ。カントー、ジョウトのジムバッジ十六個を獲得後、ポケモンリーグに挑戦し殿堂入り。その後もホウエン、シンオウなど各地のジムを巡り勝利を収めてきた知る人ぞ知る実力者。ジムリーダー、四天王への勧誘もあったとされるが、本人は辞退している……」
「…………」
「な? 自分、とんでもないやろ?」
「きょ、恐縮、です……」
「アッハッハ! うちの同僚みたいなこと言うなぁ」
チリさんは楽しげに笑った後、うっすらと微笑んだ。そういう表情を、私はよく知っている。――戦うひとの、顔だ。
「改めまして。パルデアポケモンリーグ四天王やらしてもろてます。チリちゃんでーす。これからも自分のこと、見守らせてもらうさかい、きばってや?」
「……ただのポケモントレーナーの、アヅサです。お手柔らかに、お願いします」
「いや自分全然ただのポケモントレーナーちゃうやん!?」
「こ、ここではまだ無名なんで……」
「充分話題になっとるから! せやからチリちゃんこうやって会いに来たんやからな!?」
おもろいやっちゃなぁ、と呆れながらも笑ったチリさんは、仕事があるからと私にスマホの番号を教えて去っていった。
「電話でもメッセージでもええから、いつでも連絡してな。自分なら大歓迎やで」
そう言ってばっちりウインクまで決めてくれたチリさんを見送りながら、とんでもないのはあなたの方では……なんて思ってしまうのだった。
☆アヅサ
ジョウト出身の凄腕ポケモントレーナー。現在パルデア地方を観光がてらジム巡りをしている。パルデアに来てから最初に捕まえたカルボウ♂(後にソウブレイズ♂)のカルラを中心にパーティーを組み立てている。
☆チリ
パルデアポケモンリーグの四天王。上司に「面白いトレーナーが遊びに来てるので見てきてください」と言われ、多忙な中しぶしぶ出かけたらマジで面白かった。早うここまで来てくれへんかなと期待しつつ、電話やメッセージのやりとりをする。