着せ替えティータイム(アルトリア・キャスター)

 白いワンピースに青いケープ、それから帽子。
「おお〜! すごい! 再現度高い!」
「私の服だからね……」
 身につけた衣装を確認するために鏡の前に立って、何度も身を翻す。どこからどうみても、アルトリア・キャスターの第二再臨と同じものだ。
 私の言葉に、どこか呆れた様子で答えてくれたのは服の制作者であり、本来の持ち主――アルトリア・キャスターそのひとだった。
「アルトリアすごいね! こんなのも作れちゃうなんて……」
「礼装としての機能はない、見かけだけだよ。『私』ならもっと本格的なものを用意したかもだけど……」
 彼女のいう『私』とは、アルトリア・アヴァロンのことだろう。確かに、仰々しいものを用意してくれそうだ。
「衣装を交換するってだけなら、これぐらいでも大丈夫……だよね?」
 そう言って笑ったアルトリアは、黒のマントにオレンジのシャツ――魔術協会礼装を身に纏っていた。
 きっかけは、私の何気ない一言から。
「アルトリアのその服、可愛いよね。よく似合ってる」
「えっ、あ、ありがとう……?」
 紅茶のおかわりを注いであげながら普段思っていたことを口にすると、彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「こう……魔女っ子って感じで! 夢がある!」
「あはは、何それ……。あづさだって、魔術師なのに」
「私はなんちゃって魔術師だからなぁ……カルデアのマスターだから、そう呼ばれてるだけというか……」
 成り行きでそれっぽいことをしているだけで、私が子供の頃に憧れた物語の魔法使いからはいまいちズレている。
「まあ、ちょっとした憧れ……みたいな感じかな」
「……憧れ、かぁ」
 しみじみと呟いてから、口の中にクッキーを放り込む。そんな私の些細な呟きを繰り返してから、二杯目の紅茶に口をつけたアルトリアは何かをひらめいたように声を上げた。
「ちょっと待ってて!」
 席を立って、部屋を飛び出していった彼女を呆然と見送る。しばらくすると、何かを抱えて戻ってきた。
「はい、あげる」
 渡されたのは、今の彼女が身につけている衣服と同じもの。
「えっ、これ、どうしたの?」
「作ってきた!」
「作ってきた!?」
 服って、そんなあっさり作れるものだっけ!?
「こう……魔術やスキルでちょちょいと……ね?」
「な、なるほど……?」
 キャスタークラスって物を作るのが得意なスキル持ちが多いし、それを駆使してくれたのだろう。
「ありがとう、アルトリア。早速着てみてもいいかな……?」
「もちろん!」
「じゃあ失礼して……」
 いそいそと着替え始めてから、ふと思いつく。
「アルトリアも、私の礼装着てみる?」
「えっ!?」
「ちょっと待ってね……」
 クローゼットから取り出したのは、お気に入りの魔術協会礼装。最近は決戦用カルデア制服を着ていることが多いので何の問題もない。
「わ、私はいいよ……」
「あっ、私が着たやつとか嫌だよね!? ごめん、気が利かなくて……」
「いや、それは別に……」
「せっかくだし、衣装交換とかしたら面白そうだな……って思っただけで。変なこと言っちゃってごめん!」
「……素直なんだからなぁ、もう……」
 アルトリアが、私が引っ込めた礼装に手を伸ばす。ほんのり頬を染めて、どこか物言いたげな口を開いた。
「あづさ、服……借りるね」
「……うん!」
 ――こうして、私たちは互いの衣装を交換することになったのだ。
「アルトリアはなんでも似合うね。可愛いなぁ」
「誰にでもそういうこと言うから変なことに巻き込まれるんだよ……」
「お、お世辞とかじゃないよ!? 本当に、そう思うから……!」
「うん。だから余計にたちが悪いというか……」
 やれやれと溜め息をつきながら椅子に座ったアルトリアが、冷めてしまった紅茶を飲み干す。
「おかわり、いる?」
「……うん」
「了解! お菓子は?」
 まだまだあるよ、とストレージから取り出せば「……オネガイシマス」と片言で返された。理性と本能が争った結果、本能が勝ったのだろう。
「今度はさ、お揃いの服とか着てみたいね」
「お揃い……」
 水を足した電気ポットの電源を入れながら、新しいティーバッグを用意する。今度はフレーバーティーにしようかな。
「うん。……いいと、思う」
 頷いてくれた彼女の湖面に似た碧い瞳がきらりと瞬いた気がして、その眩しさに目を細めた。

2023年9月10日