氷菓も溶ける恋心

 目の前に聳え立つ、きらきら輝く氷の山。苺の果肉が混ざった真っ赤なシロップと、とろみのある練乳がかけられたそれは綺麗なだけではなく可愛くも見える。
 その向こうで、どこか惚けたようにかき氷を見つめている要くんに声をかけた。
「じゃあ、食べよっか」
「は、はい……!」
 ――近くにかき氷が有名なお店がいるから食べに行こう。そう誘ったのは数日前のこと。「かき氷ですか? いいですよ」と頷いてくれた要くんは、その時はあまり興味がなさそうだった。
 多分、彼が考えていたかき氷はお祭りの屋台で出される、手持ちサイズのカップに盛られた氷と、砂糖の甘みだけで作られたカラフルなシロップのかけられたものだったのだろう。
 けれど、最近はかき氷もSNSにたくさん画像が投稿されているくらい、いわゆる『映えるスイーツ』として大人気だ。
 今回、要くんとやって来たお店も、おしゃれなかき氷が有名になったお店だった。
 最初は二人分頼もうかと思ったけれど、お試しに一つだけにしてみて正解だった。私一人では食べ切れそうにない。
「どこから手をつけたらいいのか迷っちゃうね」
「そうですね……」
 要くんは真剣な眼差しをかき氷に向けている。手に持ったスプーンを恐る恐る突き刺して、氷を掬った。
 私も同じように苺の果肉がついている部分をスプーンに乗せる。
「「いただきます」」
 ぱくりと口に含むと、氷がじんわりと溶けて苺の甘酸っぱさが広がる。
「冷たくて、甘いですね」
「そうだね」
 当たり前の感想だったけれど要くんの表情はとても満足げで、ひょいぱくとかき氷を口に運んでいる。
「要くん、そんなに急いで食べると……」
「っ〜〜〜〜〜〜!?」
 空いている手で頭を押さえた要くんに、遅かったかと苦笑してしまった。
「……頭がキーンとなりました……」
「かき氷食べるとなっちゃうよね。要くん、大丈夫だよ。そんなにすぐには溶けないだろうから、ゆっくり食べよう」
「はい……」
 むむ、と唸りながらも、要くんはかき氷が気に入ってくれたようで食べるのをやめてしまうことはなかった。
 私も再びスプーンをかき氷に差し込む。同時に、要くんも氷を掬おうとした。
 かちゃん、と互いのスプーンが触れ合って音を立てる。
「あっ……」
 慌ててスプーンを引っ込めると、要くんも同じ仕草をした。
「ご、ごめんね……」
「いえ……」
 かき氷を食べて冷えた体が、あっという間に火照ってしまう。心臓がどきどきと鳴って落ち着かない。
「五十鈴さん」
「ひゃ、はい!」
「顔が、真っ赤になっているので……冷やした方がいいと思うのです……」
「そ、そそ、そうだね……か、かき氷食べよっかな!」
「あっ、そんな一気に……!」
 かき氷を勢いよく食べ進めると、頭の片隅がキーンと痛くなった。……さっき、要くんに教えてあげたところなのに。
 恥ずかしくなって、ますます体温が上がる。
「……僕と、お揃いですね」
「……うん……」
 甘くて冷たいかき氷を食べに来たのに、どうしてこんなに熱くなってるんだろう。
 ふふ、と楽しそうに微笑む要くんを見ていると余計に頭が茹だって何も考えられなくなった。