一番星を、撃ち落とす(スグリ)

 小さい頃に見た、星の光に似ていると思った。

 憂鬱な他校との合同林間学校。行き先は祖父母の暮らす故郷で、新鮮なことなど何一つない。
 そう、思っていた。あの子が来るまでは。
 都会の上品な雰囲気のする制服を着た彼女は、早速喧嘩を売った姉ちゃんをものともせず蹴散らした。
 その姿がきらきらで、かっこよくて。ぼーっと見つめてしまった俺に、あの子は照れた様子で笑いかけてくれた。
 アヅサ、と名乗ったその女の子はポケモンが強いだけじゃなくて優しかった。村の皆が怖がる鬼さまのことも「かっこいいね」と言ってくれたし、鬼さまに会いたいという俺の夢も「叶うといいね」と微笑んだ。
 地元の小さな祭りに遊びに行ったあの夜は、今までで一番楽しかったなと思う。俺が渡したりんごあめを嬉しそうに笑いながら受け取るアヅサの表情は、星明かりのようにきらきらしていた。――すごく、可愛かった。
 でも、楽しかったのはここまで。
 アヅサは俺に嘘をついた。隠しごとをした。姉ちゃんと二人で、鬼さまと会っていたことを教えてくれなかった。
「スグリくん、その、ごめん……」
「……何が?」
 謝るなよ。俺を裏切ったことを、認めるな。
 頭の中はぐちゃぐちゃで、それでもアヅサのことだけははっきりと見えていた。
 アヅサ。俺の前に現れた、まるで物語の主人公みたいな女の子。
 俺の夢を、いとも容易く叶えて。奪い去ってしまったひどい女の子。
 悔しくて、憎らしくて。身体中掻きむしりたいぐらいの激しい感情で埋め尽くされて。
 なのに、あの優しさも。笑顔も。夜空に瞬く一番星みたいなあの瞳も。――ほしくて、ほしくて。たまらない。
「……強くならなきゃ」
 もっと、もっともっと。強くなって。今度こそあの子を倒さなきゃ。どんなに苦しくても鍛えて、周りの強い奴ら全員倒して一番にならなきゃ。
「アヅサ、待ってろよ。お前は、俺が絶対撃ち落とす」
 その輝き全部、俺だけのものにするから。それまでは、空の上でぴかぴか光っていたらいい。
 俺は、そこを目指すだけだ。

2023年12月18日