rose romance

 仕事でESを訪れると、偶然にもマヨくんと会えた。もしかしたら、って期待してたからすごく嬉しい。
「かすみさん、こんにちは……」
「こんにちは」
 囁くような声で挨拶してくれたマヨくんは後ろ手に何か持っているようだった。
「マヨさん、ほら」
 近くにいた藍良くんがせっつくと、マヨくんがよろよろとわたしの前に立つ。
「か、かすみさん」
「なあに?」
「その、よかったら、これを……」
「わあ……!」
 マヨくんが差し出したのは、可愛らしいピンクの薔薇の花束だった。
「わたしにくれるの?」
「はい」
「ありがとう! すごく嬉しい……」
 とっても綺麗だけれど、マヨくんからのプレゼントというだけでもっと美しく見える。
「大事にするね」
「は、はいぃ……」
 茎が折れたり花びらが散ったりしないよう、そっと抱え込む。
――その後も、マヨくんがくれた薔薇を日がな一日眺め続けて、花瓶に飾ってからもずーっと見つめていた。
 そういえば、とふと疑問が湧く。
「どうして九本なんだろう?」
 マヨくんがくれたピンクの薔薇の花束は、九本だった。どこか中途半端な数に、もしかしたら意味があるのかもと勘づく。
 スマホをとって検索をかけてみると、すぐに結果が出た。
 薔薇の花言葉は、本数によって変わるものらしい。一本なら一目惚れ、二本ならこの世界に二人だけ、といった風に。
 九本の薔薇は……
「いつも、あなたを想っています……」
 胸の奥が熱くなって、それが全身に広がっていく。
 同じページに、色でも花言葉が異なるとあったのでピンク色を探してみる。
 ピンク色の薔薇の花言葉は「しとやか」「上品」「可愛い人」「美しい少女」「愛の誓い」と書いてあった。
 いつも遠慮しがちなマヨくんの熱烈な気持ちに、思わず飛び跳ねてしまいそうになる。
 でもだめ。「しとやか」で「上品」なんだもの。せっかくマヨくんが褒めてくれているのだから、例え彼が見ていなくてもそういうわたしでありたい。
「……お返事、しなきゃ」
 わたしもマヨくんに薔薇の花を贈ろう。わたしの音楽の天使にぴったりな紫の薔薇を、二十四本。本当は百本贈りたいくらいだけれど、そんなにたくさんは困らせちゃうものね。
 家のお庭や室内に飾るお花を頼んでいる生花店に注文しながら、お返しをしたときのマヨくんの反応が楽しみでしょうがなかった。