エロいキスをしないと出られない部屋(ALKALOID) - 1/4

*マヨあづ編
 
「えっっっっっっ…………!?」
 目の前に書いてある文字が信じられなくて思わず目を擦った。
 もちろん、それが消えるなんてことはなくて。
 隣にいるマヨイさんの顔は、怖くて見れなかった。
 え、エロいキス……って、つまりはその、ディープキスとかそういう、ことでいい……んだよね?
 それをしないと出られないって、いやいやそんなことって。
 ドアノブを掴んで回してみるがびくともしない。鍵穴らしきものもない。
「あづささん……」
「ひゃい!!」
 突然声をかけられて飛び上がるほど驚いた上に若干噛んだ。
「な、な、なんで、しょうか……」
「そのぅ……します、か?」
「え!?」
 マヨイさんは少し困った様子で微笑んでいる。私よりもずっと冷静に、この事態を受け止めているように見えた。
「私のような者と、こんなことをするのを躊躇われる気持ちはわかりますが……」
「それはないっ……です……」
 ただ単に指定された言葉がものすごく恥ずかしいだけで、決してマヨイさんとしたくないわけではない。ものすごく恥ずかしいだけで!
「し、しましょう!」
「……本当に? 大丈夫ですか……?」
「何の問題もないです! ないんですけど……」
「けど……?」
「…………や、やり方が、わからない、ので、おまかせしても、いいですか」
 エロいキスなんて知らないよ!! したことないんだもの!!!!
「……おまかせ……」
 マヨイさんは呟いた後、小さく息をつく。
 もしかして困らせちゃったかな……任せっきりはまずかったかな……。
「わかりましたぁ……あづささんが、そう仰るのなら……」
「は、はい。お願いします」
 その言葉にほっと安堵する。……安心するのは、まだ早いのに。
 マヨイさんは私の前に立つと、そっと頬に手を添える。綺麗な顔がゆっくりと近づいてきて、ぎゅっと目を閉じた。
 そっと唇が触れ合って、離れていく。
 ……これじゃ、いつも通りの――
「んんっ!?」
 そこからはもう、なんというか……すごかった、というか。
 あらゆるエネルギーを吸い取られたような、そんな感じになった。……実際、足腰に力が入らなくなってその場にへたりこんでしまったので、多分なんか奪われた気がする。
「ドア、開きましたけど……どうされますかぁ……?」
「……む、むりです、たてない……」
「では、少しおやすみしていきましょうか」
 どことなく生気に満ちて肌艶が良くなったように見えるマヨイさんに介抱されながら、私たちはしばらくその部屋に留まったのだった。