眠るのならば、きみと一緒に

 バスルームで髪を乾かしてからベッドに向かうと、そこに私の寝転ぶスペースはなかった。
「お〜い。ちょっと〜?」
 枕の上にはツキミ、足元の掛け布団に埋もれているのがサクヤ。空いているのは真ん中の僅かな隙間のみ。……丸まって寝ろと?
「ふたりとも、せめてどっちかに寄ってくれない……?」
「ぴかぁ」
「……ぶらっき」
「も〜……」
 動きたくありませんとばかりに大の字になるツキミと、私は何も知りませんとでも言うようにそっぽを向くサクヤに呆れた声を漏らした。
「マソラぁ、ベッドとられた〜」
 キッチンのそばで丸くなっていたマソラに泣きつくと、めんどくさそうに溜め息をつかれる。みんな眠いのはわかるけどちょっと素っ気なくない?
「いいもん。マソラと寝るもん」
 マソラのお腹に身体を預けて目を閉じる。ほのおタイプ特有の温かさが伝わって心地よい。
 マソラは特に文句も言わず、それどころか掛け布団のように翼を優しく私の上に乗せた。頼りになる大きくて力強いそれを撫でようと腕を上げた瞬間。
「……ん?」
 素早く懐に飛び込んできた黄色い影――ツキミが胸元に引っ付いてくる。
「あれっ?」
 背中にもぴっとりと寄り添う何かの気配を感じて振り返れば、サクヤがしれっと横たわっていた。
「……君たちがベッドとったからここにいるんですけど〜?」
 ちょんちょんとツキミのお腹を突っつく。後ろ足で軽く蹴り飛ばされた。サクヤにもしてやろうと手を伸ばせば尻尾で払われる。
「……ぎゃう」
「あっ、重いよね。ごめんごめん。退くから……」
 不満げに鼻を鳴らすマソラから身を起こして、ツキミをお腹の上に乗せる。
「それじゃ、おやすみ」
 ベッドに移動して布団にくるまる。もちろん、部屋の電気を消すのも忘れない。
 そのまま、あっという間に眠りへと落ちてしまった。

◇◆◇

 カーテンの隙間から差し込む光と、鳥ポケモンの鳴き声で目が覚める。
 時間を確かめようと頭上にあるはずの目覚まし時計を取ろうとすれば、柔らかくてもふもふしたものに触れた。
「……ツキミ?」
 マソラのお腹に乗っけたはずのツキミが、枕元で眠っている。……なんだか髪がぱりぱりするのは静電気かな。
 とりあえず身体を起こすと、捲れた布団の中からサクヤが現れた。
「ヴゥ〜……」
「あっ、ごめん。眩しいよね」
 慌てて布団で包んでから、ごわついた髪をぽりぽりと指で掻く。
「いつの間に……」
 私が眠っている間にこっそり移動してきたのだろうか。キッチンに目をやれば、首を持ち上げて大きく欠伸をするマソラと視線が合う。
「……ぎゅあ」
「おはようマソラ。……見て、これ」
 枕元のツキミを指差せば、マソラは緩やかに笑う。つられて私も口元が綻んだ。
「うちの子たちは可愛いなぁ」
 小さな黄色い頭を撫で繰り回せば、ツキミはむにゃむにゃと口を動かして「ちゃあ……」と鳴くのだった。

2023年12月22日